#「猿ヶ島」

太宰さんの作品の軸に「絶望すべき時にする絶望とそれに対峙する情熱」があることは、前回のシドッチの無念を元に確認したと思います。 ずっと後に代表作となる「人間失格」だって、人間として生まれてしまった「絶望」そして、そこから抗う「情熱」の物語で…

#5「地球図」

「努力は報われる」とか、根も葉もないことでもって本質から目をそらして美談を仕立てあげる話が私は嫌いだ。人間、どうにもならないことはどうにもならないし、生きていれば理不尽に打ちのめされ、絶望する。絶望すべき時に絶望しない人間を私は信用しない…

#4「列車」

劣等感というやつは実にめんどくさいのに、いつも足元にまどろっこしくついて回る。昇華させるのも一苦労だ。うーん、苦労はしてないか。振り回されて、クタクタになってバカを見る。それでも周りを見渡せば、自分を卑下して次の劣等感とご対面。出会いと別…

#3「魚服記」

「白竜魚服」と四字熟語があるらしい。どれくらいの人が知っているのだろうか。白竜が魚に化けて泳いでいたところを漁師に射られたという中国の故事に由来するらしく、簡単に言えば、偉い人が身分を偽ったがために災難に遭うことらしい。 日本に置き換えるな…

#2「思い出」

3章に渡って太宰の幼少期から青春時代までの記憶が小説という体裁よりも随筆として綴られている。 第一章は青森の大家に生まれた幼少期の太宰の記憶を曾祖母、祖母、父母、兄三人、姉四人、弟一人、叔母、その三人の娘という大編成の家族構成を各人とのエピ…

#1 「葉」

フランスの詩人、ポール・ヴェルレーヌの詩を前書きに持ってきて、こんな書き出しで始まる。 死のうと思っていた。 私が思う太宰作品の中で、いや、もしかすると日本文学の中でもっとも痺れた書き出しだ。端的でいて、でも、作家の書こうとしていることが言…

はじめに

どうもこんにちは。 暑さのせいか、何のせいか、どういう気の迷いか、25歳にもなって、今更になって太宰治を全集で読み通してみようと思い立ちました。 高校の頃から太宰さんが好きで、大学生になると、桜桃忌に墓参りに行くほどには好きです。 ずっとパラパ…